内容を伴わない高額な工事
ある相談を私の知り合いの業者(電気工事業者)が受けた事が始まりになります。
相談内容は、
- 3年程前、ある業者に塗替え工事をしてもらった。
- 汚れない(汚れにくい)と言われたはずの塗料だったのですが、最近非常に汚れてきた。
- その汚れが非常に目立って見た目が悪いため、施工業者に電話で話をすることにした。
- 汚れを取る為には高圧洗浄をしないといけないとの話をされた。
- 洗浄の依頼をすると足場が必要になるため、架設の費用と洗浄費用がかかるとの事。
- 汚れないとの事だったので、汚れに対する保証内容ではないのですか?との問に、汚れは違うとの回答
- そもそも汚れないはずの塗料なのでは?との問に、建物形状によるので汚れる場合もあるとの回答。
- 一体どうしたものかと思案している時に、メーター取り替えに来ていた電気工事業者にその旨を相談。
このような流れで今回私のところに相談がきた次第でした。
ある程度このような事は有り得る話で、営業担当者のオーバートークが原因で、施主と工事業者との話し方や受け取り方で食い違いが生じることにより起きてしまいます。
一言で言えば原因は営業担当者の説明不足に他ならないのですが、現実的に汚れに対する事に関しましては、非常に難しく、この業者が言っている事もわからなくないといった感じが、最初話を聞いた時の感想でした。
実際に見ない事にははっきりした事がわかりませんので、そのお客様のご自宅に伺って現状確認と、詳しい話を聞きに日時を決めまして行きましたところ、その後、大変驚きの話を聞くことに・・・
相談内容に付いては聞いていた通りの状況の確認はできたのですが、詳しい話を聞いてみると、今更それは工事業者としては言うことは如何なものかと思えるような程の高額な費用を支払ったと言うことに非常に驚いた次第でした。
40坪程度の建物で、工事金額は 270万円。
福岡で金額を考えた場合、40坪程度の建物だとしたら相場は外壁・屋根まで工事を行いまして100~150万円程度。
外壁のみでしたら100万円以下で十分に工事を行うことができる価格です。
通常行われる費用よりも120万円以上の費用を支払い工事をされていたようでした。
話を聞いた時は、「何故そのような金額で工事をされたのですか?」
という話を聞いたのですが、担当者の話を信じ契約をしてしまったそうです。
そのお客様は、すでに現役を引退されているご年配のお客様でしたので、あまりインターネットを使う訳ではありません。
現状を余り調べる術もなく、その営業担当の人の良さのみで契約してしまったとの事でした。
こちらが実際の建物になりまして、特にこの部分の汚れが非常に目立ち気になるとの事でした。 |
3年ほど前に塗替えをしたようには見えないほど、全体的に汚れているのがわかるかと思います。
工事業者の話によると自社で開発した凄く良い塗料ということで、その塗料の中にセラミックを配合しているため、非常に美観的に優れているし、汚れにくい、また非常に長持ちする優れた塗料という説明を受けたようでした。
セラミックと聞けば知らない人々にとっては凄く良い塗料のように聞こえますが、セラミックは一般的に塗料に配合された製品がすでに沢山あります。
セラミック塗装について
ここで一度話は変わりまして、セラミックという塗料について話をしたいと思います。
セラミックとは広義には陶磁器全般であるが、狭義では基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体を指す。近年では、シリコンのような半導体や、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物の成形体、粉末、膜など無機固体材料の総称として用いられている。 「ウィキペディア セラミックスより引用」
簡単に話しますと陶磁器を微細に砕いた物を塗料に混ぜ合わせた塗料が一般的にセラミック塗料という呼ばれ方をします。
また、セラミック塗料というのは2通りありまして、塗料自体にセラミックを配合している非常に意匠性に優れた塗料と、塗料内にセラミック成分を配合し、独自の技術でセラミックの特徴を生かした技術を使用したセラミック複合技術というものに分かれています。
セラミック塗装
まず、塗料自体にセラミックを配合している非常に意匠性に優れた塗料でのセラミック塗料の説明になりますが、こちらに関しましては非常にわかりやすい説明を行なっているメーカーの頁がありますので、そちらを読まれました方が理解しやすいかと思います。
山本窯業化工 株式会社 カラーセラミックス
セラミック塗料では国内有数の塗料メーカーになります。
またセラミック塗装という呼び名の他、石調塗装やグラニットというような呼び方もします。
セラミック複合技術を使用した塗料
もう一つのセラミック塗料と呼ばれるものに、塗料内にセラミック成分を配合し、独自の技術でセラミックの特徴を生かした技術を使用したセラミック複合技術を使用した塗料というものがあります。
厳密にはこの塗料はこの場合の塗料は、セラミック塗料と言うよりもセラミック複合技術を使用した塗料ということになりますが、これは塗料内に配合されているセラミックが塗膜の形成段階で、表面に浮き出て配置されることにより、汚れにくい塗膜にするという特徴を持っている塗料になります。
塗料は有機質となりましてその構造により帯電性という特徴を持っております。
また、空気中の汚れも有機質となりますので、同じく帯電性をもっていることになります。
この物質の持つ電気的性質(+と-の性質)により互いの物質が引き寄せられ、その結果として空気中の汚れが外壁に吸着してしまうことによって、汚れとして表面上に蓄積されていくことになり、汚れやすい(または、汚れた)状態になってしまいます。
これが汚れを引き起こす原因とするならば、帯電性の性質を抑えることができれば外壁に吸着する汚れを軽減に繋がる、という観点から開発された技術が、セラミック複合技術というものになります。
セラミック自体は有機質では無く無機質なりますので、帯電性を持たない特徴がありまして、帯電性を持っていないことにより、空気中の汚れを引き寄せにくくなるという観点から、このセラミックの特徴を生かし、本来有機物である塗料の表面にセラミックを配置することにより、塗膜表層に無機物の層を作り電気的性質の軽減(低帯電性)を図りまして、結果として汚れにくい塗膜を形成する技術をセラミック複合技術と呼びます。
技術名は各社によって違いますが、このセラミック複合技術という名称は、エスケー化研の技術名称となっております。
エスケー化研 クリーンマイルドシリコン カタログより引用
セラミック技術を使用した塗料やセラミックを配合した塗料
関西ペイント セラMシリコンⅡ |
エスケー化研 クリーンマイルドシリコン |
日本ペイント ファイン4Fセラミック |
関西ペイント アレスアクアセラシリコン |
エスケー化研 水性セラミシリコン |
菊水化学工業 水系ファインコートシリコン |
これらの2つの塗料をセラミック塗料と通常呼ばれるようですが、大体セラミック塗料と呼ばれる場合は、前者のカラーセラミックスという塗料のように意匠的に非常に優れた特徴を持つような塗料の事を、セラミック塗料と読んでいる場合が多いと思われます。
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塗装をされている外壁を確認しましたところ、今回のセラミック塗装はどうやら前者の意匠性に優れた塗装となっておりました。
相談を受けたお客様宅の外壁の様子 | 同じ場所での表面拡大写真 |
確かにセラミック塗装と呼ばれるもので施工をされている事にはなるのですが、自社開発の塗料の為に優れていると言っても、同様の塗料は他にいくらでもありますので、見た目で判断した場合において、この工事業者の塗料のみが特別な塗料という事では無さそうに思えます。
実際の外壁 |
この両者を比べましても、さほど違いは見受けられないように思います。
またセラミック塗装は意匠性が優れているという特徴がありますが、この塗料本来持っている意匠性というものは、目地を入れることにより実際の石を貼付たような仕上げができるということに付きまして、セラミック塗装で行われる施工例では以下のような仕上げにすることが、最も一般的となっております。
セラミック塗装(石調塗装) 施工例
セラミック塗装(石調塗装) 施工例 拡大
目地を入れることにより本物の大理石を貼付ているように見せることができる事が、このセラミック塗装の一番の特徴となります。
さて、話は戻りますが、実際の施工ではこの様な目地を入れることもなく、ただ単に表面を塗装しているのみとなっておりまして、せっかくの優れた意匠性を活かすこと無く、全体の塗装を行なってしまえば、この塗料を使用する価値は半減してしまいます。
目地を入れない仕上げを行う場合、見た目的に同様の仕上げを行うことができる塗料は他にもまだありまして、仕上がった塗膜の厚みこそ違えども、一般の方々にはほぼ同じように見える仕上げ方法もあります。
スキンと呼ばれる塗装 | セラミック塗装(石調塗装・グラニッド) | 実際の外壁 |
上記のスキン・セラミック塗装・実際の外壁、どれもほぼ同じような仕上りに見えると思います。
このスキンと呼ばれる塗装もセラミック塗装の中に含まれておりまして、塗料の材質は全く同じではないにしろ、似たような材質の塗料を塗装方法を変える事により、以下のような仕上り方となります。
スキンと呼ばれる塗装の方が費用をあまり掛けずに行えるというメリットがありますので、目地を入れないような仕上げ方法の場合でしたら、スキンでもある程度同様の仕上を行うことは可能です。
ここまでの内容を元に、相談者様の話を一回整理しておきます。
- 一般的にセラミック塗装(石調塗装・グラニット)と呼ばれる材料で施工は行なっていた。
- しかし、セラミック塗装の意匠性に優れた特徴を生かした仕上げ方法では無かった。
- 結果として、下位グレードのスキン比較した場合、仕上りは全く同じではないが、素人目ではスキンと同様の仕上りに見えることになってしまった。
ここの3項目がここまでの内容から判断できることとなります。
3項目の内の2項目は、マイナス的要素を含んでいる内容になります。
汚れについて
さて、もう一つの問題として汚れに関することが当初の相談の中にありましたので、その事について話して行きたいと思います。
当初、汚れない(汚れにくい)という事を言われた。
という事だったようですが、これはオーバートークだったのか、もしくは本当に汚れない塗料と思っていたのか、この事に関しましてはどのような理由から営業担当者が言ったのかは定かではありませんので、今となってはハッキリとしたことはわかりません。
「最も汚れが気になる箇所」 |
この部分に関しましては、手摺の形状上の問題でどうしても汚れやすくなっております。 |
このような理由から汚れやすくなっておりますので、この手摺の汚れを改善するためには、水の流れを変えるために手摺の形状を変える必要があります。
改善方法としましては、手摺天場に笠木を設置することにより、伝い水が直接手摺壁に流れなくなるようにする方法が、最も適した改善方法となります。
汚れる原因がわかれば、その原因を改善することが最も効果的な対策となります。
改善前 | 改善後 笠木設置 |
この笠木を設置する事により、汚れに関しましては飛躍的に改善されます。
次にもう一つ考えなければならない事としまして、仕上の塗装の表面形状を検討する余地があります。
前回の工事業者が行なっている仕上はセラミック塗装になっておりまして、塗装の表面は非常に凹凸が出来てしまう形状となってしまいます。
上記の写真ではわかり辛いですので、他の写真で表面の形状を確認してみます。
今回の相談者様宅の外壁は、この写真よりも大きな凹凸の形状となっておりましたが、この程度の凹凸でも如何にも表面に汚れが溜まりやすいように思えます。
この塗装表面の形状というのは塗料の変更を行い、また仕上げ方を変えることによって、以下のような表面に仕上げることも可能となります。
見た目は全く変わってしまいますが、汚れに対して考えた場合、明らかにこちらの仕上の方が先ほどの写真よりは表面の凹凸が少なく、また滑らかな感じがしますので、汚れが溜まりにくいように思えます。
このような事から考えましても、相談者様の汚れが酷いという悩みは、手摺形状と塗装の仕上の表面形状の両方から考えましても、当然の事ながら施工時から予想はできる結果でした。
恐らくこのセラミック塗装を行った故に、以前の吹付タイルの時よりも汚れに関しましては、酷い状態と感じられてしまったのだろうと思います。
ここまでの内容を整理してみますと、
- 手摺形状が一番の問題であったが改善は行われていない。
- 汚れやすい形状の塗装の仕上げを行なっている。
- 塗装表面の仕上げに関しては他の選択肢もあった。
ここの3項目がここまでの内容から判断できることとなります。
3項目の内全てにおいて、マイナス的な内容になります。
以上の内容から再考
今回の工事内容を改めて纏めてみますと、
- 一般的にセラミック塗装(石調塗装・グラニット)と呼ばれる仕様での施工ではあった。
- セラミック塗装の意匠性に優れた特徴を生かした仕上げ方法では無かった。
- その結果、下位グレードのスキン比較した場合、仕上りは全く同じではないにしろ、素人目では同様の仕上りに見えることになってしまった。
汚れに付いての内容を纏めますと、
- 手摺形状が一番の問題であったが改善は行われなかった。
- 汚れやすい形状の塗装の仕上げを行なっている。
- 汚れにくい仕上げに関しては他の選択肢もあった。
以上の事がわかります。
相談者様としましても、費用に見合っている工事内容だったとするならば、最終的に納得ができるのかもしれませんが、今回の結果はまったくもって納得ができる内容ではなかったようです。
非常に残念な事ではありましたが、以上の内容で 工事費用 270万円 という金額をお支払いしたようです。
内容から見たところ、セラミック塗装を行なっているとはいえ、良いところ100万円で十分と思われます。
もしくは、3年程度でこのような結果になるのであれば、100万円でも高いのかもしれません。
ましては、270万円という高額な費用を頂く以上は、建物の根本的な改善や最善の仕上を行う必要があります。
しかしながら、全くそのような事がなされていない工事内容が、本当に残念に思えてなりませんでした。
真面目に地道にやっている工事業者がいる傍ら、このような工事業者が未だいることが非常に残念に思ったものです。
改善策での工事内容
このような症状を改善するには先程上げた6項目を最低限改善する必要があります。
この6項目について以前の施工金額の内容に関しての事と、今回の相談者様のご要望に対する改善策を考えた場合に、
- 一般的にセラミック塗装(石調塗装・グラニット)と呼ばれる仕様での施工ではあった。
- 270万円という高額であるならば当然のこと。むしろ、費用を下げて他の塗装に変えるべき。
- セラミック塗装独特の意匠性に優れた特徴を生かした仕上げ方法では無かった。
- 270万円もの費用があるのに意匠性に優れた仕上げを行わない事は考えられない。
- 上記同様、むしろ、費用を下げて他の仕様(塗装)に変えるべき。
- その結果、下位グレードのスキン比較した場合、仕上りは全く同じではないにしろ、素人目では同様の仕上りに見えることになってしまった。
- セラミック塗装を行ったとしても意匠的なことを気にしないのであれば、見た目がほぼ変わらないスキンで行い、尚且つ、工事費用は下げるべき。
- また、本当にセラミック塗装が適した塗装なのか、検討の余地が大。
- 手摺形状が一番の問題であったが改善は行われなかった。
- この箇所は今後汚れる事を考える以上、最低限改善すべき箇所。
- 汚れやすい形状の塗装の仕上げを行なっている。
- 汚れにくい仕上げ方法で行うべき
- 高額なセラミック塗装を使用してまで汚れやすい塗装を行う意味が無い、返って逆効果。
- 仮にセラミック塗装で施工を行うとするならば、上記の笠木の設置は必須。
- 汚れにくい仕上げに関しては、他の選択肢もあった。
- あえて汚れやすい塗装を行うよりも、当然のことながら汚れにくい塗装で施工を行うべき。
- セラミック塗装を使用するならば、玄関廻りの一部など、アクセント的に使用したほうが効果大と思われる。
- また、そのような小面積で使用したほうが、全体の費用は掛からず施工が可能。
以上の考えとなりました。
そして、その後に実際の工事に取り掛かることとなります。
問題点の改善を測り、また前回の工事では扱っていなかった箇所の工事も行いまして、工事は3週間程度で完了。
工事費用 120万円 という結果になっております。
細かな施工内容はここでは割愛致しますが、270万円という高額な工事費用で何も改善が図られなかった内容が、約半分の費用で改善できた事例となります。
3年経過後の様子
平成22年7月に工事を行なっておりますので、平成25年7月で丁度3年経過となります。
この写真をとった日時は平成25年3月4日になりますので、正確には2年と8ヶ月ということになりますが、約3年程度経過後の様子として見て頂けますと幸いです。
共に工事後3年経過した写真です。
以前の工事の時と比べまして、経過時間はほぼ変わらないものの、明らかに汚れからは違うことがわかるかと思います。
再度申しますが、どちらの写真も工事後3年経過した写真です。
恐らく以前の工事が、右の汚れ方程度でしたら、今回相談者様も納得できる範囲内だったのではないかと思います。
手摺に笠木の設置を行い、仕上げの塗料を変更することにより、これほどまでも症状が改善した例となります。
「全景写真」
まだまだ全体的に非常に綺麗な状態。
近くで見てみますと、パラペット部は多少汚れが目立つようになっているようです。
通常汚れやすいとされる塀なども、
非常に綺麗な状態を保っています。
以前は工事後3年経過で爆裂を起こしていた軒天の箇所も、今回は問題ない状態となっております。
「以前の工事内容」 3年経過で爆裂再発 |
「今回の工事内容」 3年経過後も問題無し |
これほどまでに明らかな差が出ることは通常では稀ですが、工事内容により結果は全く違うものだと改めて考えさせられたものです。
そして、忘れてはいけないことは、以前の工事内容が270万円、そして今回弊社で行った工事内容で130万円ということです。
この差額をどう捉えるかは、読み手によって異なることとは思いますが、以前の工事内容は、本来、忘れては行けない大事な何かを忘れた結果、このような工事を行なってしまったように思えてなりません。
現在はインターネットが普及した事により、施主側も色々と情報を得られる事ができるようになり、このような事例は少なくはなって来ましたが、それでも完全に無くなったとはまだ言えない状況です。
皆様方の塗り替え工事がこのような事例にならないよう、施主・工事業者共に考えていく必要が、これからもまだまだ続きそうです。
※ 弊社としましても、今後工事を行う予定としております皆様方に、詳細な内容をお伝え出来ればと思い、また、相談者様も実際の内容を皆様方にお伝えしたいということから、今回このような頁を作成致しております。
以前の工事内容が悪いということではなく、要は金額に見合う工事内容ではない、という事が問題となる事例となりますので、再度改めましてご確認頂けますと幸いです。
また、この度、記事にすることを快くご了承頂けました相談者様、心より感謝致します。
誠に有難うございました。