ケレン・目荒し(足付け)について
塗装を行う前処理として行う下地処理の内、ケレンという工程は非常に重要な作業の一つになります。いくら良い塗料を塗装したとしてもこのケレンを疎かにしてしまうと、塗料本来の性能を発揮できないばかりか、最悪、塗装としての役割を果たすことが出来ない場合(塗膜剥離)もありますので、実は塗装を行う上で最も重要な工程と言っても過言ではない工程の一つです。ケレンは「素地調整」とも言われ、
- ・脆弱な塗膜や錆の除去
- ・健全な塗膜の除去
- ・表面に細かい傷を付ける目荒し(足付け) 等
塗装の仕様・下地の状態・費用によって行われる内容が変わります。
ケレン・目荒し(足付)の区分
ケレンの程度の基準はその種別を定めている機関によって表記や内容が少々違いますが、一般的に4つに区分(1種~4種)され、状況に応じてケレンの程度が変わります。
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ケレンには以上の種類があります。この内、4種ケレンが目荒し(足付け)と呼ばれ、表面に細かな傷(凹凸)を付けることにより、塗料の接触面積を大きくすることによって密着性を向上させる目的で行われる方法となります。1種ケレンは橋梁や船舶などの防食目的(重防食)で行われる内容となり、2種ケレンは鉄塔などの鉄骨構造物で行われる内容になります。鉄筋コンクリート(RC)や戸建などは通常3種ケレンが最も多く、下地の状態が良い場合などは4種ケレン(目荒し)というように構造物の種類や目的によってケレンの程度は区分されます。
また、大規改修工事を始めとする建築分野の素地調整では、上記の1~4種の区分ではなくRA・RB・RC種という区分わけになっている場合もあります。
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素地調整にはこの他にもSSPC(アメリカ)・ISO-SIS(スウェーデン)・JSRA-SPCC(日本)による区分などもあります
- 関西ペイント 素地調整について
- 国土交通省 公共建築改修工事標準仕様書
1種ケレン(RA種相当) 「ショットブラスト・サンドブラスト・剥離剤」
剥離剤を用いた1種ケレンの動画です。
※ブラスト工法の動画はこちらから → ブラスト工法「YouTube検索」
剥離剤を用いて行う1種ケレンは塗膜の除去のみが可能となります。サンドブラスト・ショットブラスト等で行われる下地調整(ミルスケールの除去)までは行えないため、ディスクグラインダー等で行う必要があります。
戸建 塗装工事においての剥離剤使用例
剥離剤とは塗布することにより塗膜を除去することが出来る薬剤になります。
「三彩化工」 ネオリバー S-767
さほど使用頻度はありませんが、戸建の塗装工事では玄関扉塗り替え時に旧塗膜の剥離をする場合や、
古くなった木部の塗装の剥離、
鉄部の塗装の剥離などに使用することがあります。
2種ケレン(RA種相当) 「電動工具・手工具併用」
電動工具を用いた2種ケレンの動画です。
2種ケレンは下地や用途にあわせて研磨用のパット(ジスクペーパー・ワイヤーカップ・ワイヤベベル等)を用いて行います。
左:ワイヤーカップ 右:研磨用パット(呉英製作所 ミラクルカップ)
旧塗膜や錆を電動工具(写真はカップワイヤーを使用)で除去し、塗装を行う素地の調整を行います。
戸建の塗装工事では既存塗膜の全撤去を行うことはあまりありませんが、集合住宅の大規模改修工事を行う場合などには2種ケレン(RA種)素地調整を行うことなどもあります。
3種ケレン(RB種相当)「電動工具・手工具併用」
研磨紙を用いた3種ケレンの動画です。
戸建の塗装工事で最も良く行われるケレンの内容になります。下はシャッターボックスの上部に発生している錆の写真ですが、
スクレイパーや研磨紙、
電動工具(写真はジスクペーパー)を用いて錆の除去を行います。
こちらは庇上部の錆を3種ケレンで除去している写真です。
4種ケレン(RC種相当) 「手工具」
表面の付着物除去・目荒しを目的とした4種ケレンの動画です。(現在準備中)
4種ケレン
4種ケレン
錆の発生や脆弱塗膜がみられないに、表層の清掃・目荒し(足付け)目的で行われる内容になります。
3種ケレンにあわせて4種ケレンも戸建の塗装工事では良く行われる素地調整内容になります。
戸建の塗装工事におけるケレン・目荒し(足付)の性質から起きる問題点
素地調整が特に重要とされる橋梁や鉄骨構造物は、各工程毎に施工管理者(現場監督)・発注者(公共工事であれば役所の担当者)がその程度の確認を行い、了承を得なければ次の工程に移ることが出来ない事が多いため、施工の品質(ケレンの程度)の管理・確認をすることが出来ますが、戸建ての塗替工事などの場合では、このような監督官がいないことが多く、ほとんどの場合、素地調整の品質管理は行った作業者に委ねられます。
このケレン・目荒し(足付)という工程は、その後に塗装を行うため、
- ・どのような内容のケレンを行ったか
- ・そのケレンはどの程度行われているのか
- ・妥当と思われる程度まで下地処理を行われているのか
このような事が仕上がった後に確認することがまず出来ません。特にケレン・目荒しなどの素地調整はキッチリ行えば行うほど時間は掛かる反面、より精度の高い下地の状態になるのですが、その労力と行った内容は仕上がり後の塗装を見ても作業を行った本人以外にはまずわかりません。
少々言い方は悪いですが、
「やってもやらなくても仕上げてしまえばわからない」
素地調整にはこのような性質がありますので本来は重要な工程になのですが、実は意外と軽視(省略)されがちな工程にもなります。
ケレン・目荒し不足から起こる症状の例としまして代表的なもので塗膜剥離が挙げられます。健全な塗膜は劣化したとしても変色・退色やチョーキング(白亜化)というような症状となる程度で塗膜剥離は通常まず起きないのが普通ですが、ケレン・目荒し不足で塗装を行った場合などでは本来の付着力が得られず、次第に付着力の低下から塗膜剥離が起きてくるといった症状が起こります。
下は雨樋の塗装の塗膜剥離の写真です。
近くで確認してみるとわかるのですが、雨樋表面にケレン・目荒しを行った跡(細かい傷)がみられません。
ケレン・目荒しを行っている場合は、
このような傷が表面に残ります。
仕上がったすぐはケレンを行っているか否かを見分ける事は出来ませんが、この細かい傷(凹凸)がある・ないで数年後の状態が違います。素地調整は表には見えない地味な作業になるのですが、実は非常に重要な工程なのです。