↓ はじめに
↓ 工事業者の考え方
↓ 簡単な例での計算
↓ 数社の事例での比較検討
↓ 人件費が掛かる工事と掛からない工事の違い
↓ 金額が内容により簡単に操作出来る理由
↓ 最後に
はじめに
相見積を取った際に各業者の見積金額が異なることは普通の事になりますが、その金額の差が50,000円程度の差でしたらある程度理解もできると思いますが、これが200,000円や、多い時では500,000円も違うような金額差が生じている場合なども、実際見積を比較する際には十分にありえることになります。
物を購入するような場合では同じ商品の価格を比較することにより、安い費用で購入できたりもします。
同様の感覚で塗装工事の見積書の比 較を行った場合、 費用が安い = 優良な工事業者 である感覚に陥りやすいのですが、この感覚が全ての見積書にあてはまるかといえばそうではなく、塗装工事のように 物を購入 するのではなく、技術や知識を購入 するものに関しましては、内容に対しての費用のバランスを見る必要が重要になります。
価格差のみの比較方法で優越を付けてしまいますと、本来の相見積をとることにより得られることができる情報の価値も、意味合いも全く無くなってします。
見積内容から得られる事を十分に比較・検討を行った結果、数社の内のどの業者が最も優良な業者であるかということがわかって来ます。
安い見積金額の業者が優良業者である場合もありますし、その逆の高額の見積金額の業者のほうが優良な業者である場合も十分に考えられます。
この頁では、このような金額差がどのような理由から生じ、またどのように考えたら良いかということを話していきたいと思います。
工事業者の考え方
見積り金額の差が各社によって大きく違うようなことになるのかを、見積提出する工事業者の立場になって考えてみましょう。
仕事として行う以上、工事業者は受注出来た場合、最初に利益目標額(純利ではなく粗利)の確保を行います。
この利益目標額は各業者の規模や、必要経費、利益率によって様々ですが、通常では50%~20%程度になりまして、残りの金額が工事原価になります。
150万円の工事で考えた場合、
利益率50%だとしたら、利益が75万円・工事原価が75万円。
利益率20%だとしたら、利益が30万円・工事原価が120万円。
このようになります。
先ほどと重複しますが、この利益率というのは、各業者の年間の必要経費と年間売上高のバランスによって決まりますので、業者によって様々なのはわかるとしても、この様に数字に置き換えて見直してみますと、この利益率の違いによっての金額差は非常に大きく感じられます。
少々掘り下げまして、多少詳しく説明をしますと 、
「年間の必要経費」
工事受注のための広告費(チラシやCM費用)や会社を運営するにあたっての固定経費等。
直接工事を行う場合は、人件費は工事原価内に含まれる事になりますが、元請業者や中間業者などの場合は、その業者の人件費などもこの中に含まれていることになります。
「年間売上高」
必要経費額に対して年間の売上高が多い業者の場合はでは、利益率は下げることが可能となりますが、年間の売上高が少ない業者などは必然的利益率が上がってしまいます。
この利益額を除いた費用が工事原価で実際の工事を行うことになります。
この工事原価から工事を行う上で必ず必要となる、架設費用と塗料費や副資材費を除いた費用が、実際に工事に掛けることができる人件費と言うことになります。
人件費を福岡市の場合で考えてみますと、で通常職人で15,000円程度、それとは別に各個人に掛かる福利厚生費(企業負担となる社会保険・厚生年金・雇用保険等の日割り額)やその他の諸経費の合計で5,000円程度となりまして、合計20,000円/人という金額が通常採算が取れる金額となります。
工事原価から架設費用と塗料費や副資材費を除いた費用から、この20,000円/人という数字を割ることにより、実際に工事に掛けることができる人工数(にんくすう)が計算できることになりますので、その範囲内で工事を行うように内容を組み立てて実際の工事に取り掛かっていきます。
簡単な例での計算
「工事金額」 110万円 「工事内容」 外壁・屋根塗装
この例で考えて見たいと思います。
「A社 利益率40% 利益が44万円・工事原価が66万円の場合」
工事を行う上で必要となる費用は以下とします。
「架設費用」18万円 「塗料費・副資材費」25万円 合計43万円
この費用を工事原価から差し引きますと、
66万円 - 43万円 = 23万円 工事に掛けることができる人件費 23万円
人件費を20,000円/人で割って、延べ人数を計算します。
23万円 ÷ 2万円 = 11.5人
従いまして、11.5人工が利益目標を達成するために掛けられる人数となります。
「B社 利益率20% 利益が22万円・工事原価が88万円の場合」
工事を行う上で必要となる費用は先ほどと同条件。
「架設費用」18万円 「塗料費・副資材費」25万円 合計43万円
この費用を工事原価から差し引きますと、
88万円 - 43万円 = 45万円 工事に掛けることができる人件費 43万円
人件費を20,000円/人で割って、延べ人数を計算します。
43万円 ÷ 2万円 = 21.5人
従いまして、21.5人工が利益目標を達成するために掛けられる人数となります。
毎日2名で作業をした場合、
A社の場合では 11.5人工 ÷ 2名 = 5.75日が工事に掛けられる日数となり
B社の場合では 21.5人工 ÷ 2名 = 10.75日が工事に掛けられる日数となります。
後は共に割り出した日数で、工事を終えることができる内容の組立を行い、実際の工事を進めていくこととなります。
予定通りに作業が進まない場合もあり、多少オーバーすることもありますが、基本的には当初の予定人工数で終わらせるように努力をします。
このような考え方が一般的な工事業者の考え方となります。
以上の例でわかるように、塗装工事というものは外壁塗装というものを商品を販売しているのではなく、工事金額から割り出した費用を元に、技術や工事内容の提供を行なっていると考えた方が良いと思います。
提供する内容の程度によって、造り上げるものの程度は良くもなり悪くもなるのがこの塗装工事ということになります。
数社の事例での比較検討
先ほどの事例を元に、実際に相見積時に起こりうる状況を考えてみます。
「工事内容」
工事名:○○○○邸 外壁・屋根塗装工事
仕様:アクリルシリコン樹脂塗装 3回塗り (全ての業者同じ塗料を使用することを前提)
備考:木部・鉄部塗装 架設工事含む
「見積金額」
A社 850,000円 (個人の塗装店で2名程度で行なっている直接施工業者)
B社 1,100,000円 (法人の塗装会社で4名程度で行なっている直接施工業者)
C社 750,000円 (個人の塗装店というよりも職人さん1名のみで行なっている直接施工業者)
D社 1,200,000円 (リフォーム会社や工務店のような直接工事を行わないような元請業者)
全ての業者が同条件という前提ですので、通常の感覚で検討をした場合ではC社が最も費用が安く、良い業者のように思えます。
但し、何度も話しているように通常の感覚では塗装工事の見積書を判断することは不十分となりますので、先ほどの考え方を元にこの4社の中から最良な業者を見つけ出す作業を行います。
判断材料として工事に掛かる日数と、毎日の作業に携わる人数の確認だけは行う必要がありますので、以下の質問を行なっておきます。
Q1 「工事期間はどの程度要しますか?」
Q2 「作業は何名で行われますか?」
この質問内容の答えから見積金額に対する工事内容を判断していく事になります。
「各業者の回答」
A社 「A1:工事期間は1週間から10日間程度 A2:作業は2名でを行う。」
B社 「A1:工事期間は早くても2週間~ A2:作業は2~3名で行う。」
C社 「A1:工事期間は10日~2週間程度 A2:作業は1名。」
D社 「A1:工事期間は10日間程度 A2:作業は2~3名で行う。」
以上の回答を元に、工事に掛ける事が内容の程度を見て行きたいと思います。
A社の場合 工事期間の内、架設にかかる日数(組立2日、解体1日)を差し引き、実際の塗装工事に掛かる日数を割り出すと、 1週間(7日間) - 架設にかかる日数 2日間 = 5日間 毎日の作業を2名で行ったとして、20,000円/人 × 2名 = 40,000円/日 が1日の人件費となりますので、 4日間 × 40,000円/日 = 160,000円 この計算から 160,000円~280,000円が人件費ということがわかります。 |
B社の場合 工事期間の内、架設にかかる日数(組立2日、解体1日)を差し引き、実際の塗装工事に掛かる日数を割り出すと、 2週間(14日間) - 架設にかかる日数 2日間 = 12日間 毎日の作業を2~3名の中間値である2.5人で行ったとして、20,000円/人 × 2.5名 = 50,000円/日 が1日の人件費となりますので、 10日間 × 50,000円/日 = 500,000円 (最小値) この計算から 少なく見積もって500,000円、もしくはそれ以上が人件費ということがわかります。 |
C社の場合 工事期間の内、架設にかかる日数(組立2日、解体1日)を差し引き、実際の塗装工事に掛かる日数を割り出すと、 10日間 - 架設にかかる日数 2日間 = 8日間 毎日の作業を1名で行ったとして、20,000円/人 × 1名 = 10,000円/日 が1日の人件費となりますので、 7日間 × 20,000円/日 = 140,000円 この計算から 140,000円~200,000円が人件費ということがわかります。 |
D社の場合 工事期間の内、架設にかかる日数(組立2日、解体1日)を差し引き、実際の塗装工事に掛かる日数を割り出すと、 10日間 - 架設にかかる日数 2日間 = 8日間 毎日の作業を2~3名の中間値である2.5人で行ったとして、20,000円/人 × 2.5名 = 50,000円/日 が1日の人件費となりますので、 7日間 × 50,000円/日 = 350,000円 この計算から 350,000円が人件費ということがわかります。 |
「人件費 比較表」
作業人数/日 | 工事日数 | 架設日数、休日を除く 塗装工事にかかる日数 |
1日あたりの人件費 20,000円/人 |
人件費 総額 | |
A社 | 2 | 7~10 | 4~7 | 40,000円 | 160,000円~280,000円 |
B社 | 2~3 | 14~ | 10、もしくはそれ以上の日数 | 50,000円(2.5人で算出) | 500,000円、もしくはそれ以上 |
C社 | 1 | 10~14 | 7~10 | 20,000円 | 140,000円~200,000円 |
D社 | 2~3 | 10 | 10 | 50,000円(2.5人で算出) | 350,000円 |
以上が各業者における人件費となります。
次にこの費用を元に見積金額からの読み取れる利益率を見て行きたいと思います。
利益率は人件費以外にも、架設費用や材料費、諸経費が必要となりますので、この費用をある程度ではありますが、割り出して行きたいと思います。
まず架設の費用ですが、これは請け負った塗装業者が自分で組立てる場合や、架設業者が組立てる場合によって費用は異なってきますので、ある程度の金額しかわからないと思います。
通常では100,000円~200,000円の範囲で収まる事が多いと思われますので、その費用を元に考えて見ます。
今回は中間値の150,000円という数字で考えてみたいと思います。
次に材料費ですが、この費用を割り出すことはそれなりの労力が掛かりますが、ある程度の金額を割り出すことは可能となります。
まず前提として見積書内に使用する塗料の名称が記載されていることが必要ですが、各部位ごとの塗装面積や箇所数・使用する色の数に対しての必要塗料缶数を求めます。
この塗料の必要缶数は業者によっては記載している場合も多く、そのような場合でしたらその数字を元に割り出して行くと良いと思います。
(別頁で作成)に詳しい計算方法がありますので、ここでの割り出し方の説明は割愛させて頂くとして、この材料費が200,000円と仮定して考えてみます。
最後に諸経費の計算ですが、ここで考える諸経費は通勤に掛かる交通費(有料道路、燃料費)と工事で発生する産廃費用程度となります。
工事に10日間かかるとして、有料道路を使用して通勤していると考えるならば、1日あたりの往復の有料道路費用とその際に掛かるであろう燃料費の合計金額 × 工事日数 程度の計算で良いと思います。
産廃処分費に関しましては、5,000円(0.5㎥)程度を見込んでいれば良いと思います。
これらの諸経費の合計が30,000円と仮定して考えてみます。
以上の内容から、
架設費 150,000円
材料費 200,000円
諸経費 30,000円
の合計 380,000円 という費用が塗装工事以外にかかることになります。
まずこの費用を各社の見積金額から差し引きます。
A社 850,000円 - 380,000円 = 470,000円
B社 1,100,000円 - 380,000円 = 720,000円
C社 750,000円 - 380,000円 = 370,000円
D社 1,200,000円 - 380,000円 = 820,000円
この金額が最大限工事にかけることができる費用となります。
次に先ほど計算しました人件費をこの費用から差し引きます。
A社 470,000円 - 160,000円~280,000円 = 190,000円~310,000円
B社 720,000円 - 500,000円もしくはそれ以上 = 多くても220,000円
C社 370,000円 - 140,000円~200,000円 = 170,000円~230,000円
D社 820,000円 - 350,000円 = 480,000円
この残りの費用が各業者の利益といいうことになります。
各業者の利益率と利益額を見てみますと、
利益率 算出式 | 利益率 | 利益額 | |
A社 | 190,000円 ÷ 850,000円 = 0.22 310,000円 ÷ 850,000円 = 0.36 |
22~36% | 190,000円~360,000円 |
B社 | 220,000円 ÷ 1,100,000円 = 0.2 (最大) | 20%以下 | 220,000円以下 |
C社 | 170,000円 ÷ 750,000円 = 0.22 230,000円 ÷ 750,000円 = 0.30 |
22~30% | 170,000円~230,000円 |
D社 | 480,000円 ÷ 1,200,000円 = 0.40 | 40% |
480,000円 |
このような結果となりました。
さて、以上のことを踏まえまして皆様はどのように思われるでしょうか?
工事の内容は人件費と比例しますので、人件費が高いB社とD社が他の2社より優れていると思われます。
利益率をみてますとD社は40%程度となっておりますので、他の3社に比べ高いようにも思えます。
利益額を見積金額から差し引いた金額が工事原価となりますので、その工事原価が行われる工事の実際の価値となります。
A社 850,000円 - 190,000円~360,000円 = 490,000円~660,000円
B社 1,100,000円 - 220,000円 = 880,000円
C社 750,000円 - 170,000円~230,000円 = 520,000円~580,000円
D社 1,200,000円 - 480,000円 = 720,000円
ここまでの数字が計算できましたらほぼ作業は終わりとなります。
後は物を購入する感覚で比較を行う事が、はじめて出来ることになります。
A社 850,000円の費用を出して、490,000円~660,000円の対価が購入できる。
B社 1,100,000円の費用を出して、880,000円もしくはそれ以上の対価を購入できる。
C社 750,000円の費用を出して、520,000円~580,000円の対価を購入できる。
D社 1,200,000円の費用を出して、720,000円の対価を購入できる。
このように考える事が出来ます。
これでもどの業者を選んだら良いか迷われる場合は、工事期間に対する利益額からも考えてみます。
A社 1週間から10日で、190,000円~360,000円の利益を上げる。
B社 2週間もしくはそれ以上の日数で、最大でも220,000円もしくはそれ以下の利益を上げる。
C社 10日間から2週間で、170,000円~230,000円の利益を上げる
D社 10日間で、480,000円の利益を上げる
このように考え直してみます。
最大限利益を上げた場合(最短日数で工事が完了した場合)で考えてみますと、
( )の中の数字は、休日を除いた日数「1週間の内1日」での、1日あたりの利益額
A社 1週間で360,000円 (360,000円 ÷ 6日間 = 60,000円/日)
B社 2週間で220,000円 (220,000円 ÷ 12日間 = 18,000円/日)
C社 10日間で230,000円 (230,000円 ÷ 9日間 = 25,555円/日)
D社 10日間で480,000円 (480,000円 ÷ 9日間 = 53,000円/日)
このように様々な角度から見積金額を見ていく作業を行いますと、表面上では見えなかった何かが見えてくることになります。
どの業者を選ぶかは選ばれる方次第です。
A社を選ぶ人もいればB社・C社・D社と、様々かとは思いますが、最も納得のいく業者を選ばれたら良いと思います。
人件費が掛かる工事と掛からない工事の違い
先の事例において人件費にかける費用が業者によりかなり違っておりましたが、何故それだけ人件費が変わってくるのかということをここから説明していきたいと思います。
こちらは実際に工事を行ったお客様になります。
【工事内容】 工事日数 35日間(天候の具合や追加工事がありましたので非常に長く掛かりました。) 工事金額 1,100,000円 |
先ほどのB社の例でありました1,100,000円というのが、実際に行いましたこちらのお客様の例となります。
例では諸経費の費用や材料費などが多少変わっておりますが、上記の内容が実際に掛かっている費用となっております。
工事の詳細の内容は塗装工事日誌に記載しておりますので、ご覧になって頂けますとわかると思います。
従いまして、ここでの説明は割愛させて頂きます。
大牟田市 T様邸の工事記録
平成23年9月26日(月) | 作業人員4名(半日) 『累計 2人工』 | 架設足場組立 |
平成23年9月28日(水) | 作業人員 3名 『累計 5人工』 | 高圧洗浄 波板撤去 |
平成23年9月29日(木) | 作業人員 3名 『累計 8人工』 | 外壁・屋根・木部下地処理 |
平成23年10月1日(土) | 作業人員 3名 『累計 11人工』 | 各所下地処理、下塗 |
平成23年10月3日(月) | 作業人員 3名 『累計 14人工』 | 各所下地処理続き 木部上塗1回目 |
平成23年10月4日(火) | 作業人員 3名 『累計 15人工』 | 各所下地処理続き 外壁・屋根下塗 |
平成23年10月7日(金) | 作業人員 2名 『累計 17人工』 | 外壁上塗1回目 軒天上塗1回目 |
平成23年10月8日(土) | 作業人員 2名 『累計 19人工』 | 外壁上塗2回目(2F色) 軒天上塗2回目 屋根下地調整 |
平成23年10月11日(火) | 作業人員 2名 『累計 21人工』 | 屋根下地調整 外壁上塗2回目(1F色) |
平成23年10月12日(水) | 作業人員 2名 『累計 23人工』 | 養生撤去 縦樋上塗1回目 他 |
平成23年10月13日(木) | 作業人員 2名 『累計 25人工』 | 屋根上塗1・2回目 樋上塗2回目 破風板(南面)上塗2回目 他 |
平成23年10月16日(日) | 作業人員 1名 『累計 26人工』 | 下屋根下地調整材塗布 他 |
平成23年10月17日(月) | 作業人員 2名 『累計 28人工』 | 下屋根上塗 波板張替(2F部分)他 |
平成23年10月19日(水) | 作業人員4名(半日) 『累計 30人工』 | 架設足場解体 |
平成23年10月20日(木) | 作業人員 2名 『累計 32人工』 | 玄関廻り塗装 下廻り塗装 |
平成23年10月28日(金) | 作業人員 2名 『累計 34人工』 | 残工事 |
以上が実際に行なっている工事内容となります。
上記の内容では人件費がかかってしまうため、人件費を掛けずに工事を行ったとした場合の内容と、今回行った工事内容での違いを以下の表に書き出してみます。
○は今回行った作業、もしくは最低限の内容でも行わる作業内容 ▲は行う場合と行われない場合がある作業内容
■は下地処理関係で本来重要な工程が含まれている作業内容
実際に行った内容 | 最低限行う必要がある内容 | ||
架設組立 | ○ | ○ | |
高圧洗浄 | 外壁 | ○ | ○ |
屋根 | ○ | ○ | |
塀 | ○ | ||
土間 | ○ | ||
外壁下地処理 | エアコン配管・軒樋 配線等撤去・復旧 |
○ | |
釘打込み | ○ | ||
パテ処理前 下塗 | ○ | ||
パテ処理 | ○ | ||
表面研磨 | ○ | ||
表面清掃 | ○ | ||
クラック処理 | ○ | ○ | |
シーリング補修 | ○ | ||
屋根下地処理 | 洗浄不良部 ケレン | ○ | |
表面清掃 | ○ | ||
木部下地処理 | ケレン処理(手工具) | ○ | ○ |
ケレン処理(電動工具) | ○ | ||
劣化部パテ処理 | ○ | ||
パテ処理部 ケレン・清掃 | ○ | ||
外壁塗装 | 下塗 | ○ | ○ |
上塗1回目(中塗色使用) | ○ | ||
上塗2回目(仕上色使用) | ○ | ||
同色で上塗2回塗り | ○ | ○ | |
屋根塗装 | 下塗 | ○ | ○ |
下地調整 | ○ | ||
上塗1回目 | ○ | ○ | |
上塗2回目 | ○ | ○ | |
木部塗装 | 下塗 | ○ | ▲ |
上塗1回目 | ○ | ○ | |
上塗2回目 | ○ | ▲ | |
玄関アクセント壁 | 下塗 | ○ | |
上塗1回目(意匠性塗料コテ塗り) | ○ | ||
上塗2回目(意匠性塗料コテ塗り) | ○ | ||
上塗1回目(外壁と同等の塗料) | ○ | ||
上塗2回目(外壁と同等の塗料) | ○ | ||
手直し等 | ○ | ○ | |
各所清掃 | ○ | ○ | |
架設解体 | ○ | ○ |
このように大きな作業内容の違いがあります。
但し、この最低限の作業内容に問題があるかと言えば必ずしもそうは言えず、ごく一般的に行われている内容となりまして、最低限行わなければならない工程のみの内容となります。
建物は外壁材・屋根材の仕上状況や、経過年数、立地条件によっての劣化の進行状況は変わってきますので、状況に応じて工程を加えたり、変更したりする必要があります。
これらの状況に適した工程の組み直しを行わず、最低限行わなければいけない工程のみ行った施工が、果たして本当に良いものかどうかは不安が残りますし、仮に最低限の内容での施工で将来問題が発生しないとしても、本来は個々の状況に応じた理想的な施工を行うことが、最も建物にとっても良いように思います。
但し、このような適した工程を行うことは良いことばかりでは無く問題もありまして、最低限の内容以上の工程を行いますので、必然的に作業の手間は増える事になります。
作業の手間が増えるということは、作業時間が増えますので、最終的に人件費が増額(工事原価の上昇)ということになってしまい、結果的に見積金額は最低限の内容と比べ高くなりがちとなります。
金額が内容により簡単に操作出来る理由
先ほどの例を使ってここでも話していきたいと思います。
内容は以下の通りです。
【工事内容】 工事日数 35日間(天候の具合や追加工事がありましたので非常に長く掛かりました。) 工事金額 1,100,000円 |
これらの数字を元に計算を行なってみますと、
人件費 塗装工30人工 × 20,000円 = 600,000円
架設費用 150,000円
塗料材料費 245,000円(副資材含む) + 波板材料費 25,000円 = 270,000円
諸経費 80,000円(交通費5,000円/日 大牟田市まで通勤)
合計 1,075,000円
工事金額1,100,000円に対しての利益は2.3%と、とんでもない薄利での工事となってしまっております。
当初の予定ではここまで利益が薄くなる計算ではありませんでしたが、大幅な工程の追加によって材料費・人件費の増額となってしまい、このお客様ではこのような結果となりました。
数字は日々計算しながら作業を行なっておりますので、終わってみて計算してはじめて気付いたということではなく、途中で費用がかからない方向へ軌道修正を行うこともできたのですが、一通りの工程を行った結果このような結果となってしまいました。
利益が少なくなると気付いた時に費用がかからない方向へ軌道修正を行うということですが、これは最も費用のウエイトを占めている人件費の削減を行うことが、一番手っ取り早く工事にかかる費用の節約(=利益の確保)となります。
人件費の削減を行うということは、作業時間を減らすということになりますので、一連の工程の中から重要性が少ない工程を省いていくこととなります。本来必要と思える工程を省くことはさすがに心が痛みますが、これも利益のためと思い妥協するか、もしくは後であるつもりで最終的に忘れてしまうか、もしくは最初から気付かなかったということにすれば心も痛まずに済みます。
どのような心情で工程を省くかは作業を行なっている者によって違うでしょうが、この工程を省くということによって人件費の削減を行えます。
仮に4人工程度の工程を省いたとします。(塗装工 30人工 → 26人工程度の内容に変更)
4人工の人件費は、 20,000円 × 4人工 = 80,000円 となりますので、確保できる利益が80,000円増えるということになります。
先ほどの例の利益は25,000円(工事金額の2.3%)でしたので、これで105,000円(工事金額の9.5%)となりました。
もしまだ利益を増やしたいと思い他の工程も省くことにします。
今度は一気に後6人工分の工程を省きます。(塗装工 30人工 → 20人工程度の内容に変更)
このことにより 6人工 × 20,000円 = 120,000円 の利益を新たに確保することが出来ました。
これで利益は 25,000円 + 80,000円 + 120,000円 = 225,000円(工事金額の23%)となりました。
これでも満足せずまだ利益確保を行います。
最後にあと5人工分の工程を省きます。(塗装工 30人工 → 15人工程度の内容に変更=最低限の内容)
5人工 × 20,000円 = 100,000円 の利益を確保です。
これで利益合計は 25,000円 + 80,000円 + 120,000円 + 100,000円 = 325,000円(工事金額の30%)
あっという間に30%の利益を確保したことになります。
これは数字を計算しただけの簡単な算数ですので、机上の空論のように思われますが、実際に今回のお客様の工事を塗装工15人工で工事を終わらせることは不可能なことではありません。
今までは人件費の削減に付いての話でしたが、他に材料費の削減からも利益の確保を行うことが出来ます。
今回行った塗装の内、屋根の塗装は5回塗の仕様で施工を行なっておりまして、上記の人件費を削減するにあたって工程の省略(5回塗 → 3回塗)を行なっておりますので、省略した分の工程の材料費はかからないことになります。
この材料費だけで30,000円程度。
また、同グレード(アクリルシリコン樹脂塗料)の中でも比較的安価な塗料を使用すれば、材料費の節約は行えます。
細かく書いていくと長くなりますので、私が計算した分での合計をお伝えしますが、この一連の材料の調整だけでも 50,000円 は見込むことが出来ます。
先ほどの人件費の 325,000円 と、材料費の 50,000円 を合計しまして 375,000円 もの利益を、確保しようと思えば十分に確保できることになります。
これを読まれて「本当に簡単にそんなことができるのだろうか」と思われる方もいるかもしれませんのでもう一つ説明を加えます。
工事金額の1,100,000円からこの375,000円を差し引いた金額は725,000円となります。
工事金額が725,000円ではないにしろ、780,000円でも698,000円でも何でもいいですので、その程度の金額をイメージしておきまして、広告やネットを見てみますと・・・
今だけ先着10名様 外壁塗装 屋根込み 798,000円!!
外壁塗装 足場サービス 580,000円!!
屋根塗装 200,000円!!
このような金額の広告を見たことがある思います。
先ほどの725,000円とほぼ一緒の価格帯のキャッチコピーはを良く目にすることと思います。
これらのことからもわかるように、この価格で工事を行うことは不可能ではありませんし、また先の例で話しますと途中で軌道修正を行いさえすれば、簡単に利益を残すことは可能だということです。
このように塗装工事というのは、工事にかかる費用を内容や材料を多少変更することによって、いくらでも操作しようと思えば出来てしまいます。
最後に
この頁では比較的皆様が悩まれる、「相見積を取ったはいいが、一体どこの業者がいいのか」ということに対して、各業者の見積に対しての考え方から判断する一つの方法をお伝えしました。
本来は費用の内訳はグレーゾーンにしておくことが一般的ではありますが、今回あえて皆様に話しましたのは、その中身を考えることによりその業者がどのような考えを持った業者なのかということが、ある程度ではありますがぼんやりと見えてきます。
多少なりともそのような事が見えてきますと、様々な見積書を前に悩んでいる状況を、解決する手立てなるのではないかと思いまして、今回このような話をした次第です。
工事金額に占める割合は塗料費用よりも、むしろ技術料の方が大きいといえます。
従いまして、利益というのものは本来技術に対価として支払われるべきものであり、人よりも高い技術レベルを持ち、その技術を惜しみなく使用することによって良い物を造り上げ、その結果としてより高い利益ということ繋がるのであれば話はわかりますが、現状では技術を惜しみなく使用することよりも、「なるべく早く」「なるべく拘らず」「なるべく普通程度の仕上げ」の工事を行い、時間を掛けずに工事を仕上げることが出来る業者の方が、結果的に見積金額の技術料としての対価を沢山得られることとなってしまっております。
本来の目的の技術や造り上げたものの精度に対価ではなく、いかに少ない人数で早く工事を終わらせることが出来た、ということに対しての利益として。
きちんとした施工を行う真面目な業者ほど丁寧な施工を心がけます。
一つ一つの工程を大事にし、自分がこだわりたいところは納得がいくまで作業を行い、他社よりは時間がかかり工事期間は長くはなってしまうことも多々ありますが、出来上がったものはとても精度が高く、品質も良いのもを造り上げることができるでしょう。
しかし、その代償として本来受け取るはずの対価である利益が全くない、下手をすれば赤字という状態に陥ってしまいます。
一言で言うとするならば、
今まで長年経験を積み重ねて技術向上に励み身につけた事を、実践の工事である程度、もしくは使用しないほうが、高い利益に繋がる。
一体 ↑ は何なのでしょうかね・・・
おかしな時代が来たものだとつくづく思います。
見積金額についても技術・拘りをもった工事業者の見積は比較的高額となり、ある程度の工事しか行わないような工事業者の見積は比較的安い見積金額となります。
当然のことではありますが、見積は安いほうが施主には好まれ安いため、高額な見積金額では相見積時で却下される場合が非常に多く、工事を受注すること自体、非常に困難となってしまいます。
しかし、このページで話しましたことでもわかりますように、実際は工事業者の考え方次第でどのようにでもなってしまいまして、いくら見積金額が他社より10万円安い、あるいは20万円安いからといっても、本当に他社と同じものが10万円あるいは20万円安いかどうかまではわかりません。
先の工事例を何度も挙げて恐れ入りますが、110万円(この金額でも一般的には高いと言われる金額です)の工事金額は107.5万円の価値(工事原価)があることは先の計算で明らかです。
ただ、このような工事内容を行うとしても、相見積時に95万円の業者がいれば、15万円もの金額の差がありますので、工事を受注できない可能性も十分にあります。
しかし、工事内容を考えた場合、見積金額の95万円は、もしかしたら60万円分あるいは70万円分の価値しかないかもしれません。あるいは本当に95万円の価値があるかもしれません。
見積金額からの15万円の価格差を選び費用を抑えたつもりでも、工事内容によって出来上がったものは、本来の予定とは裏腹に割高な工事になってしまうことも十分にありえます。
110万円で107.5万円の工事内容の価値を購入出来るはずが、95万円で60万分や70万分の工事内容の価値しか購入出来ないという事にもなりかねません。
このような事は、依頼主にはわかりずらい事になることですが、本当に一般的によくある事例です。
沢山あります工事業者の中から、本当に良心的で素晴らしい技術を持ち合わせた業者に辿り着けることは、困難な事になるとは思いますが、見つける努力と多少なりの塗装に対する知識を勉強されれば、そのような業者は必ず各地にいますので、自然に巡り会うのではないかと思います。
私も知っています良い工事業者の方たちは、私以上に本当に素晴らしい仕事をされています。
本来であれば、そのような人々の仕事がもっと潤っても良いと思いますが、現実的には何故かそうではない場合の方が多いようです。
この理由は恐らく簡単で、工事金額が高額であるためだと思います。
しかし、実際はそのような工事業者の金額は、かかった費用とその耐久性や耐用年数を考慮すれば決して高額ではなく、それが適正な金額なのであり、反対に一見安いように見える見積金額ほど、後になって実際の工事内容に対して割高に感じられるような場合も多いのではないかと思います。
塗装工事は塗料の性能も大事ですが、その塗料を使用して実際の工事を行なってくれる人の知識や技術や考え方によって塗装の品質や価値が大きく変わってきます。
他の頁でも何度も書いておりますが、相見積時には金額も大事ですが、それ以上にその工事に携わる業者の姿勢を見ることのほうが重要です。
今回のこの頁では見積金額から実際に行われる工事内容の程度を把握するために、判断材料の一つとしてこのような方法を話したのですが、この方法で確認した場合に、非常に高額だと感じられる業者だとしても、きちんとした見積書が出来ており、且つ知識が十分に備わっており、質問には相手が理解できるまで十分に説明をしてくれ、また塗料や工法に対してのこだわりが十分にあるような業者でしたら、間違いないのではないかと思います。
もしそのような業者が見つかったとするならば、本音の部分(予算や相見積金額)を話したら、きっと良い答えが見つかるのではないかと思います。
これらの事を踏まえまして、見積時にはもう少し考えてみると違った結論が出てくるのではないかと思います。